前回記事の続きです。
前回記事では、矢状断での立位アライメントを評価するための指標として、
患者さんの主観評価 (ODI)との相関を参考にしたパラメータとして、
PT, SVA, PI-LL mismatch
という3つのパラメータがある事を書きました。
そして Schwabらは, その相関を確認した上で、
成人脊柱変形を評価するための分類 (SRS-Schwab分類)を作成し、
それらが、治療に直結した分類であることを示しています。
(Schwab FJ, et al. Spine 2012)
ここで、まず、加齢によって脊椎の矢状断アライメントは
どのように変化していくのかを考えたいと思います。
加齢により、まず筋骨格系や感覚神経系の変化が出現します。
(圧迫骨折は、少し状況が変わりますので省きます)
すると、
・筋肉の萎縮
・姿勢維持機能の低下
とともに、
腰椎前弯の低下 ( = LL減少)
↓
骨盤の後傾 ( = PT増加)
↓
体を起こそうとして、股関節が伸展
(前が突っ張ったような状態になる)
↓
さらに、膝関節は屈曲
という変化が起こっていきます。
また、胸椎後弯も増加するようになります。
Lafageらは、年齢に基づいてこれらのパラメーターの閾値を定義した結果、
高齢者になればなるほど正常値でも代償機構が大きくなると報告しています。
つまり、正常人でもLLは減少し、骨盤後傾が大きくなる傾向にあります。
(Lafage R, et al. Spine 2016)
また、AIS(思春期特発性側弯症)では年齢の他に人種による差もある、
という報告もあります。(Lonner BS, et al. Spine 2010)
近年, SVAに変わる他のパラメータとして、
T1 pelvic angle (TPA)が
注目されています。(Protopsalis, et al. JBJS(Am) 2014)
![Spinal_deformityに関するreview_Neurosurg__pdf(3___16ページ)](https://livedoor.blogimg.jp/spine_trainee/imgs/8/9/8972764d-s.jpg)
(Protopsalis, et al. JBJS(Am) 2014.より引用)
SVAとPTは相互に影響がある事がわかっており, さらに、
この2つのパラメータは、LL減少に伴う代償機構によっても
影響を受けてしまいます。
このTPAは、脊椎全体の矢状面バランスと骨盤後傾(PT)とを同時に考慮できる
ことによって、単一の尺度で測定可能であるということ、また、
SVAやPTよりも立位による代償機構の影響を受けにくい、と言われており、
つまり、立位でなくても評価可能である、という点で有用になります。
(Protopsalis, et al. JBJS(Am) 2014)
しかし、TPAは上図のように "PT" と "T1SPi" との和になっていますので、
同じTPAの値を取ったとしても、PTの値の大小によって骨盤代償の負荷が異なる
事になりますので、その点の解釈には注意が必要です。
また、当然ながら人間が立位姿勢をちゃんと保持するためには、
上記の脊椎〜骨盤での代償機構の他に、股関節・膝関節・足関節の状態も
関係してきいます。
近年では、脊椎・骨盤にとどまらず、下肢の代償機構についても
議論がなされています。
そこで出てきたのが、GSA (Global sagittal axis)という指標です。
(Diego BG, et al. J Neurosurg Spine 2016.)
![Spinal_deformityに関するreview_Neurosurg__pdf(3___16ページ)](https://livedoor.blogimg.jp/spine_trainee/imgs/4/1/41d968ae-s.jpg)
(Diego BG, et al. J Neurosurg Spine 2016.より引用)
足部から頭部までの全体の側面レントゲン像(立位)を撮影し、
GSAが 脊椎骨盤パラメータ、下肢の矢状面パラメータ、そして
健康関連QOLのスコアと相関関係にあることを報告しています。
さらにFerreroらは、この全身における矢状面の変形の評価を、336名の
脊柱変形を有する患者で調査し、全身の矢状面パラメータとの関連を見たところ
下肢角, 骨盤シフトとODI(健康関連QOLの一つ)との間に相関関係がある事を
報告しています。(下肢角と骨盤シフトは以下のFigureの角になります)
(Ferrero E, et al. J Neurosurg Spine 2016.)
![Spinal_deformityに関するreview_Neurosurg__pdf(3___16ページ)](https://livedoor.blogimg.jp/spine_trainee/imgs/d/5/d557f963.jpg)
(Ferrero E, et al. J Neurosurg Spine 2016.より引用)
成人脊柱変形の手術を行う際には、ここまで評価を行うべきだというのが、
現時点でのコンセンサスになりつつあります。
おそらくかなり難解だと思うのですが、一つ一つ紐解いて考えてみると、
そこまで突拍子のないことではなく、当たり前のことなんだろうと思います。
立位の姿勢 (特に頭が骨盤の下に来る安定した姿勢)を取るためには、
脊椎だけではなく、下肢の代償機構も評価しないといけない
という事です。
次は、矢状面バランスから見た頚椎の理想的なアライメントについて
考えてみたいと思います。
お読み頂き有難うございました。
前回記事では、矢状断での立位アライメントを評価するための指標として、
患者さんの主観評価 (ODI)との相関を参考にしたパラメータとして、
PT, SVA, PI-LL mismatch
という3つのパラメータがある事を書きました。
そして Schwabらは, その相関を確認した上で、
成人脊柱変形を評価するための分類 (SRS-Schwab分類)を作成し、
それらが、治療に直結した分類であることを示しています。
(Schwab FJ, et al. Spine 2012)
ここで、まず、加齢によって脊椎の矢状断アライメントは
どのように変化していくのかを考えたいと思います。
加齢により、まず筋骨格系や感覚神経系の変化が出現します。
(圧迫骨折は、少し状況が変わりますので省きます)
すると、
・筋肉の萎縮
・姿勢維持機能の低下
とともに、
腰椎前弯の低下 ( = LL減少)
↓
骨盤の後傾 ( = PT増加)
↓
体を起こそうとして、股関節が伸展
(前が突っ張ったような状態になる)
↓
さらに、膝関節は屈曲
という変化が起こっていきます。
また、胸椎後弯も増加するようになります。
Lafageらは、年齢に基づいてこれらのパラメーターの閾値を定義した結果、
高齢者になればなるほど正常値でも代償機構が大きくなると報告しています。
つまり、正常人でもLLは減少し、骨盤後傾が大きくなる傾向にあります。
(Lafage R, et al. Spine 2016)
また、AIS(思春期特発性側弯症)では年齢の他に人種による差もある、
という報告もあります。(Lonner BS, et al. Spine 2010)
近年, SVAに変わる他のパラメータとして、
T1 pelvic angle (TPA)が
注目されています。(Protopsalis, et al. JBJS(Am) 2014)
![Spinal_deformityに関するreview_Neurosurg__pdf(3___16ページ)](https://livedoor.blogimg.jp/spine_trainee/imgs/8/9/8972764d-s.jpg)
(Protopsalis, et al. JBJS(Am) 2014.より引用)
SVAとPTは相互に影響がある事がわかっており, さらに、
この2つのパラメータは、LL減少に伴う代償機構によっても
影響を受けてしまいます。
このTPAは、脊椎全体の矢状面バランスと骨盤後傾(PT)とを同時に考慮できる
ことによって、単一の尺度で測定可能であるということ、また、
SVAやPTよりも立位による代償機構の影響を受けにくい、と言われており、
つまり、立位でなくても評価可能である、という点で有用になります。
(Protopsalis, et al. JBJS(Am) 2014)
しかし、TPAは上図のように "PT" と "T1SPi" との和になっていますので、
同じTPAの値を取ったとしても、PTの値の大小によって骨盤代償の負荷が異なる
事になりますので、その点の解釈には注意が必要です。
また、当然ながら人間が立位姿勢をちゃんと保持するためには、
上記の脊椎〜骨盤での代償機構の他に、股関節・膝関節・足関節の状態も
関係してきいます。
近年では、脊椎・骨盤にとどまらず、下肢の代償機構についても
議論がなされています。
そこで出てきたのが、GSA (Global sagittal axis)という指標です。
(Diego BG, et al. J Neurosurg Spine 2016.)
![Spinal_deformityに関するreview_Neurosurg__pdf(3___16ページ)](https://livedoor.blogimg.jp/spine_trainee/imgs/4/1/41d968ae-s.jpg)
(Diego BG, et al. J Neurosurg Spine 2016.より引用)
足部から頭部までの全体の側面レントゲン像(立位)を撮影し、
GSAが 脊椎骨盤パラメータ、下肢の矢状面パラメータ、そして
健康関連QOLのスコアと相関関係にあることを報告しています。
さらにFerreroらは、この全身における矢状面の変形の評価を、336名の
脊柱変形を有する患者で調査し、全身の矢状面パラメータとの関連を見たところ
下肢角, 骨盤シフトとODI(健康関連QOLの一つ)との間に相関関係がある事を
報告しています。(下肢角と骨盤シフトは以下のFigureの角になります)
(Ferrero E, et al. J Neurosurg Spine 2016.)
![Spinal_deformityに関するreview_Neurosurg__pdf(3___16ページ)](https://livedoor.blogimg.jp/spine_trainee/imgs/d/5/d557f963.jpg)
(Ferrero E, et al. J Neurosurg Spine 2016.より引用)
成人脊柱変形の手術を行う際には、ここまで評価を行うべきだというのが、
現時点でのコンセンサスになりつつあります。
おそらくかなり難解だと思うのですが、一つ一つ紐解いて考えてみると、
そこまで突拍子のないことではなく、当たり前のことなんだろうと思います。
立位の姿勢 (特に頭が骨盤の下に来る安定した姿勢)を取るためには、
脊椎だけではなく、下肢の代償機構も評価しないといけない
という事です。
次は、矢状面バランスから見た頚椎の理想的なアライメントについて
考えてみたいと思います。
お読み頂き有難うございました。