一人前の脊椎外科医を目指して

医師12年目ぐらいの整形外科医が、一人前の整形外科医・脊椎外科医を目指すブログです。研究留学・論文・資産形成・備忘録などを載せていきたいと思います。 現在、米国spine centerへの臨床留学から帰国後、現在は某地方都市で整形外科医として勤務しています。

2018年12月


急に冬らしい寒さがやってきていますね。



毎年そうですが、年末は行事も実験も多く、いつも

何かに終われながら過ごす事が多い気がします。


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そして、今年もまた同様の展開に・・・



ちなみに私は現在大学院4年目になりますので、 3月で修了となります。


一般に大学院は「卒業」とは言わず、

在学中に学位論文の審査に合格して初めて

「学位取得」
となり、いわゆる「卒業」に該当します。




もし今年度までに学位取得が出来ない、つまり

学位論文が提出できない場合や学位審査に合格できない場合、

「(課程修了)満期退学」となります。

 
(※もちろん大学院を修了した後も、大学院が定める一定期間

(当大学では3年)以内に学位論文を提出し、学位審査に合格

した場合には、博士号を取得することが出来ます)




私の場合は6月から渡米が控えていますので、出来れば

大学院在籍中に学位審査を受けたいところです。


そして、その肝心要の「学位論文」をジャーナルに投稿したのが

今年の7月末で、論文の修正 (リバイズ)の期間や学位審査の今年度の

締切などを考えると、本当にギリギリのタイミングでした。

(しかも、調子に乗ってインパクトファクターの少し高い所に出してしまいました)



…正直、内心は在籍中の学位は難しいんじゃないかと思って

諦めかけていました .



しかし、論文の修正・投稿を根気強く、そして出来るだけ早く行った結果、

なんと3日前にアクセプトされました (^^) 



そして、学位審査の今年度の締切り (つまり、3月末での学位取得可能期限)が

来週月曜日!!!まさにギリギリ!



ということで、アクセプトを喜ぶ間もなく、学位審査に応募するための

書類作成、ならびに指導医・共著者の先生方や教授の署名集めに奔走中です。



書類作成、本当に面倒で時間のかかる作業なのですが、せっかくここまで

来ましたので、今年度中の取得を目指して、とにかくやるだけです!




・・・やはり今年も、仕事に終われながら過ごす年末になりそうですね。



 

以前、外勤先に向かう通勤電車の中で、多くの中高生が

バックパックのベルトを緩めて持っており、それを見て

"腰を痛めそうだな・・・"と内心で思っておりました。

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そこで 今回は、バックパックはやはり腰に悪影響を及ぼすのか

について、文献的に調べてみました。






1. 小児における腰痛とバックパックとの関連


小学生から中学生 (具体的には11から14歳)における腰痛の発生率は,

およそ3割前後と言われているようです。(Watson KD, et al. Pain 2002.)



児童の腰痛のリスクとしては、過去の報告だと、

女児・健康状態の悪化・身体活動レベルが高いこと・

座る時間が長いこと・腰痛の家族歴

そして、バックパック が挙げられています。(Mackenzie WG, et al. CORR 2003)


子どものバックパックの重さは、自分の体重を基準にして考えると

アメリカでは92%以上の児童が10〜22%の重さのバックパックを持っており、

腰痛のある児童のうち82%はバックパックを使っていた!

という報告もあるようです。(Sheir-Neiss GI, et al. Spine 2003)



Neushwander らは, 立位で撮影できるMRIを使用して、特に腰痛のない

11-14歳の子どもたちを集め、撮影したところ、

バックパックの負荷(重さ)と、痛みの強さが相関関係にあったこと、

そして、その痛みの原因は、

腰椎椎間板が負荷により高さが減弱し 、

負荷により非対称性に椎間板に負荷がかかること

によると報告しています。(Neuschwander TB, et al. Spine 2010.)



さらにShymonらは、その正常データと特発性腰痛 (明らかな器質的原因の

ない腰痛) をもつ子どもたちとで立位MRIで比較したところ、

腰痛を有する子どもたちではL5/S1椎間板にのみ圧縮力がかかっていましたが、

正常の子どもたちよりも椎間板に対する圧縮力は少ない分、

腰椎前弯が失われ


バックパック負荷増大による痛みがより強くなる傾向があったということです。 
(Shymon SJ, et al. Spine 2014.)


痛みを有する子どもたちでは、バックパック負荷に対して椎間板への負荷を避ける

ために、腰椎前弯を減弱させることなどで対応している
と考察しています。 




やはり、小児におけるバックパックは腰痛への負荷は避けられないようです。



最近では、小学校などの"置き勉"なども問題になっていましたが、

できるだけ小児に対してはバックパックの負荷を減らすのが重要かも知れません。





 2. 成人におけるバックパックと腰痛の関連
 
ここまでは、小児について文献的に見ていきましたが、

では成人ではどうなのでしょうか?


上記でご紹介したShymonらは、成人でも立位MRIを撮影し、

バックパック負荷による影響を調査しています。(Shymon SJ, et al. Eur Spine J. 2014.)


この論文によると、 6人の成人ボランティア (平均年齢 45歳)が体重の10%に

あたる重量の バックパックを着用した上でMRIを撮影しています。


その結果、バックパック着用により、仰向けと比較して、

L4/5とL5/Sの中央部の椎間高が有意に減弱し、

L5/S1 椎間板では前方の高さも減弱していましたが、

腰部の長さや腰椎前弯は仰向け時と比較しても有意差はなかった

という結果でした。


面白いのは、バックパックでは特に椎間板前方の圧縮が出てくるという点と、

(やはり)下位腰椎部での椎間板レベルに負荷は最もかかりやすいという点

かなと思いました。



 
さらに、この結果をFEA (有限要素解析)を用いて研究しているstudyもあります。
(Hansraj KK, et al. Surg Technol Int. 2018.)


これによると、成人男性のデータを用いてシミュレーションstudyを行ったところ、

追加重量として 0.45〜45.36 kg (1〜100ポンド)をかけていますが、

脊椎にかかる荷重は、その重量の7.2倍にもなっており、

骨盤を20度前傾させて腰椎を前方に引き出したようなシミュレーションでは

その荷重は、重量の11.6倍に上昇したということです。 




いかにバックパックの荷重が腰椎負荷を上げてしまうかが分かるかと思います。


ただ、成人では筋力や椎間板の耐荷重も小児よりは大きいと考えられる為、

腰椎前弯はバックパック負荷でもほとんど変わらない点は初めて知りました。





 

前回記事の続きです。


前回記事では、矢状断での立位アライメントを評価するための指標として、

患者さんの主観評価 (ODI)との相関を参考にしたパラメータとして、


PT, SVA, PI-LL mismatch


という3つのパラメータがある事を書きました。



そして Schwabらは, その相関を確認した上で、

成人脊柱変形を評価するための分類 (SRS-Schwab分類)を作成し、

それらが、治療に直結した分類であることを示しています。
(Schwab FJ, et al. Spine 2012)

 

ここで、まず、加齢によって脊椎の矢状断アライメントは

どのように変化していくのかを考えたいと思います。

加齢により、まず筋骨格系や感覚神経系の変化が出現します。

(圧迫骨折は、少し状況が変わりますので省きます)

すると、

・筋肉の萎縮

・姿勢維持機能の低下

とともに、

腰椎前弯の低下 ( = LL減少)
   ↓
骨盤の後傾 ( = PT増加)
   ↓
体を起こそうとして、股関節が伸展
(前が突っ張ったような状態になる)
   ↓
さらに、膝関節は屈曲
 
という変化が起こっていきます。 
また、胸椎後弯も増加するようになります。


Lafageらは、年齢に基づいてこれらのパラメーターの閾値を定義した結果、

高齢者になればなるほど正常値でも代償機構が大きくなると報告しています。

つまり、正常人でもLLは減少し、骨盤後傾が大きくなる傾向にあります。
(Lafage R, et al. Spine 2016)


また、AIS(思春期特発性側弯症)では年齢の他に人種による差もある、

という報告もあります。(Lonner BS, et al. Spine 2010)



近年, SVAに変わる他のパラメータとして、

T1 pelvic angle (TPA)


注目されています。(Protopsalis, et al. JBJS(Am) 2014)

 Spinal_deformityに関するreview_Neurosurg__pdf(3___16ページ)
(Protopsalis, et al. JBJS(Am) 2014.より引用)


SVAとPTは相互に影響がある事がわかっており, さらに、

この2つのパラメータは、LL減少に伴う代償機構によっても

影響を受けてしまいます。


このTPAは、脊椎全体の矢状面バランスと骨盤後傾(PT)とを同時に考慮できる

ことによって、単一の尺度で測定可能であるということ、また、

SVAやPTよりも立位による代償機構の影響を受けにくい、と言われており、

つまり、立位でなくても評価可能である、という点で有用になります。
(Protopsalis, et al. JBJS(Am) 2014)



しかし、TPAは上図のように "PT" と "T1SPi" との和になっていますので、

同じTPAの値を取ったとしても、PTの値の大小によって骨盤代償の負荷が異なる

事になりますので、その点の解釈には注意が必要です。




また、当然ながら人間が立位姿勢をちゃんと保持するためには、

上記の脊椎〜骨盤での代償機構の他に、股関節・膝関節・足関節の状態も

関係してきいます。


近年では、脊椎・骨盤にとどまらず、下肢の代償機構についても

議論がなされています。



そこで出てきたのが、GSA (Global sagittal axis)という指標です。
(Diego BG, et al. J Neurosurg Spine 2016.)


Spinal_deformityに関するreview_Neurosurg__pdf(3___16ページ)
(Diego BG, et al. J Neurosurg Spine 2016.より引用)


足部から頭部までの全体の側面レントゲン像(立位)を撮影し、

GSAが 脊椎骨盤パラメータ下肢の矢状面パラメータ、そして

健康関連QOLのスコアと相関関係にあることを報告しています。



さらにFerreroらは、この全身における矢状面の変形の評価を、336名の

脊柱変形を有する患者で調査し、全身の矢状面パラメータとの関連を見たところ

下肢角, 骨盤シフトとODI(健康関連QOLの一つ)との間に相関関係がある事を

報告しています。(下肢角と骨盤シフトは以下のFigureの角になります)
(Ferrero E, et al. J Neurosurg Spine 2016.) 


Spinal_deformityに関するreview_Neurosurg__pdf(3___16ページ)
(Ferrero E, et al. J Neurosurg Spine 2016.より引用)



成人脊柱変形の手術を行う際には、ここまで評価を行うべきだというのが、

現時点でのコンセンサスになりつつあります。 



おそらくかなり難解だと思うのですが、一つ一つ紐解いて考えてみると、 

そこまで突拍子のないことではなく、当たり前のことなんだろうと思います。


立位の姿勢 (特に頭が骨盤の下に来る安定した姿勢)を取るためには、

脊椎だけではなく、下肢の代償機構も評価しないといけない

という事です。



次は、矢状面バランスから見た頚椎の理想的なアライメントについて

考えてみたいと思います。


お読み頂き有難うございました。
 


 

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