一人前の脊椎外科医を目指して

医師12年目ぐらいの整形外科医が、一人前の整形外科医・脊椎外科医を目指すブログです。研究留学・論文・資産形成・備忘録などを載せていきたいと思います。 現在、米国spine centerへの臨床留学から帰国後、現在は某地方都市で整形外科医として勤務しています。

2018年10月

以前の記事で紹介させて頂いた、AO Spine Japan fellowship program

ですが、先日AO Spineの事務局からメールがあり、無事に選出して頂きました。


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もとは と言えば、留学予定先のresearch coorinatorから


「 Grantを取ってくることが強く望まれる」


と言われた事がきっかけで (以前の記事をご参照ください)、かつ、

この留学についても、先方でのselectionを経て選ばれるという不確かな事でした

ので、私のこのfellowshipの応募目的としては


1) もし留学先から留学を却下されたとしても、短期留学で学びに行くことができる


2) 留学が本決定したとしても、AO Spine fellowshipは "stipend" と呼ばれる

支給があるため、 これに選ばれる = 一種のgrant を取ったことと同価値がある

という事がありました。 



実際には、 幸いにして1年間の留学も行ける予定となり、今回のAO Spine fellowshipも

選んで頂けたので、2) を達成することが出来たことになります。


(※なお、留学先から短期留学するというヤヤコシイことになるのですが、

これはAO Spine事務局に事前に問い合わせたところ、問題ないという返事でした)




これで、留学先にも grant (stipend) を取ったという事実を掲げて行くことが

できそうです。 


ただ、stipendは本当に補助金でそれほど大きい金額でもありませんので、

自身の研究のこれまでの成果とこれからの予定をアピールして、

他の留学助成財団への応募はしていきたいと思っています。

 
 

また、 今回のAO Spine fellowship programや留学先へ提出した私のCV (英文履歴書)

について、プライバシーに関わる部分は修正し、その書き方について解説を加えたものを

noteにアップロード致しました。


有料にはなりますが、ご興味のある方、また留学を今後考えておられる方は

是非ご購入して頂ければ嬉しく思います。宜しくお願い致します。




 

ブログ更新が少し滞ってしまいました。


今回は、 いわゆる高齢者の「背骨の変形」、僕らの専門用語で言うところの

「成人脊柱変形」 

 について、(自分の知識の整理も兼ねて)まとめてみたいと思います。
 





成人脊柱変形は、脊椎外科領域では最近のトピックの1つになっています。

特にこの10数年で様々な事が明らかになり、特に

治療(手術)成績を上げるための工夫が進歩しています。



歴史的には、成人脊柱変形 (Adult spinal deformity: ASD) の診断とフォローについては

冠状断、つまり正面から見た時の変形の評価が重要視されていました。

いわゆる「側弯症」というものです。


しかし、近年では矢状断、つまり横から見た時の変形の評価が非常に重要になっています。
(Schwab FJ, et al. Spine 2013, Glassman SD, et al. Spine 2005.)


おそらく最初の報告は、2005年にGlassmanらがSpineに報告した論文で、

そこで全体の矢状断アライメント (Global sagittal alignment; GSA) の

重要性が初めて提唱され、 以降、特に骨盤パラメータがその評価に重要である

ということが分かってきました。
(Schwab FJ, et al. Spine 2013, Smith JS, et al. Spine 2012, Lafage V, et al. Spine 2009)
 


その中でも、鍵となるパラメータは、


1. Pelvic Incidence (PI)
  骨盤形態の測定値で、その個人でほぼ同一の値を取る
  個人の理想的な腰椎前弯 (LL)は、この値をもとに決定される

  大腿骨頭と仙骨上縁の中点を結んだ線 (線分oa)と、
  仙骨上縁の中点から引いた、仙骨上縁のラインに対する垂線
  (線a)とのなす角を指します。


2. Pelvic Tilt (PT)
  代償性の骨盤の後弯を反映する値

  大腿骨頭から引いた、地面に対する垂線(VRL)と、
  線分oaとのなす角を指します。


となります (次の図参照)。

SDSG-radiographic-measuremnt-manual_pdf(107___120ページ)
(Spinal deformity study group; Radiographic measurement manualより抜粋)


安定した立位を保持するためには、腰椎前弯が保たれていることが大事
ですが、腰椎前弯が消失した場合、全体に体が前方に倒れてしまうため、
その姿勢を代償するために、骨盤が後傾することで保とうとします。

その代償の程度を探る指標として、これらのパラメータが注目された

ということです。


Schwabらは、492人のASD患者を対象に、

健康関連QOL (ODI) と、脊椎骨盤パラメータとの相関を調査し、

以下の3つのパラメータと相関があることを報告し、それらを基に

SRS-Schwab分類を提唱します。
(Schwab FJ, et al. Spine 2012)


それが、


1. PT

2. SVA (sagittal vertical axis)

3. PI-LL mismatch


です。

なお、SVAは、下図のXの値となります。
SDSG-radiographic-measuremnt-manual_pdf(75___120ページ)
(Spinal deformity study group; Radiographic measurement manualより抜粋)
 
そして、LLは、Lumbar lordosis (腰椎前弯) の略語で、

パラメータで書くと、

第1腰椎の上縁のラインと、第1仙椎の上縁のラインとのなす角

を指すことになります。

20180927_Twente


そして、上述した PI と, LL との関係性として,

無症状の成人においては、

 PI - LL ≦ -9°

という式がほぼ成立することを示しており,
(Schwab FJ, et al. Spine 2012)

ASD患者ではこのミスマッチが起こり、

それが健康関連QOLとの相関がある、ということです。



この論文での報告では、

ODI (0-100点満点で、点数が上がるほど状態が悪い) が 40点以上 (severe disability)

となるパラメータの閾値は、それぞれ


PT ≧ 22°, SVA ≧ 4.7 cm, PI - LL ≧ 11°


となります。これらを基にして、SchwabらはSRS-Schwab分類を作成し、

広く利用されるようになりました。

SRS-Schwab_classification_pdf(2___6ページ)
(Schwab FJ, et al. Spine 2012より抜粋)


なお、この分類は, 評価者間でのばらつきが少なく,
(Schwab FJ, et al. Spine 2012)

手術治療を行うべきか保存療法を行うべきかの決定と相関することが示され,
(Terran J, et al. Neurosurgery 2013.)

そして、術後の成績 (患者立脚型) にも反映されることが示されています.
(Smith JS, et al. Spine 2013.) 

 

次回に続きます。

マニアックな内容ですみません。



 

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