ブログ更新が少し滞ってしまいました。
今回は、 いわゆる高齢者の「背骨の変形」、僕らの専門用語で言うところの
「成人脊柱変形」
について、(自分の知識の整理も兼ねて)まとめてみたいと思います。
成人脊柱変形は、脊椎外科領域では最近のトピックの1つになっています。
特にこの10数年で様々な事が明らかになり、特に
治療(手術)成績を上げるための工夫が進歩しています。
歴史的には、成人脊柱変形 (Adult spinal deformity: ASD) の診断とフォローについては
冠状断、つまり正面から見た時の変形の評価が重要視されていました。
いわゆる「側弯症」というものです。
しかし、近年では矢状断、つまり横から見た時の変形の評価が非常に重要になっています。
(Schwab FJ, et al. Spine 2013, Glassman SD, et al. Spine 2005.)
おそらく最初の報告は、2005年にGlassmanらがSpineに報告した論文で、
そこで全体の矢状断アライメント (Global sagittal alignment; GSA) の
重要性が初めて提唱され、 以降、特に骨盤パラメータがその評価に重要である
ということが分かってきました。
(Schwab FJ, et al. Spine 2013, Smith JS, et al. Spine 2012, Lafage V, et al. Spine 2009)
その中でも、鍵となるパラメータは、
1. Pelvic Incidence (PI)
骨盤形態の測定値で、その個人でほぼ同一の値を取る
個人の理想的な腰椎前弯 (LL)は、この値をもとに決定される
大腿骨頭と仙骨上縁の中点を結んだ線 (線分oa)と、
仙骨上縁の中点から引いた、仙骨上縁のラインに対する垂線
(線a)とのなす角を指します。
2. Pelvic Tilt (PT)
代償性の骨盤の後弯を反映する値
大腿骨頭から引いた、地面に対する垂線(VRL)と、
線分oaとのなす角を指します。
となります (次の図参照)。
(Spinal deformity study group; Radiographic measurement manualより抜粋)
安定した立位を保持するためには、腰椎前弯が保たれていることが大事
ですが、腰椎前弯が消失した場合、全体に体が前方に倒れてしまうため、
その姿勢を代償するために、骨盤が後傾することで保とうとします。
その代償の程度を探る指標として、これらのパラメータが注目された
ということです。
Schwabらは、492人のASD患者を対象に、
健康関連QOL (ODI) と、脊椎骨盤パラメータとの相関を調査し、
以下の3つのパラメータと相関があることを報告し、それらを基に
SRS-Schwab分類を提唱します。
(Schwab FJ, et al. Spine 2012)
それが、
1. PT
2. SVA (sagittal vertical axis)
3. PI-LL mismatch
です。
なお、SVAは、下図のXの値となります。
(Spinal deformity study group; Radiographic measurement manualより抜粋)
そして、LLは、Lumbar lordosis (腰椎前弯) の略語で、
パラメータで書くと、
第1腰椎の上縁のラインと、第1仙椎の上縁のラインとのなす角
を指すことになります。
そして、上述した PI と, LL との関係性として,
無症状の成人においては、
PI - LL ≦ -9°
という式がほぼ成立することを示しており,
(Schwab FJ, et al. Spine 2012)
ASD患者ではこのミスマッチが起こり、
それが健康関連QOLとの相関がある、ということです。
この論文での報告では、
ODI (0-100点満点で、点数が上がるほど状態が悪い) が 40点以上 (severe disability)
となるパラメータの閾値は、それぞれ
PT ≧ 22°, SVA ≧ 4.7 cm, PI - LL ≧ 11°
となります。これらを基にして、SchwabらはSRS-Schwab分類を作成し、
広く利用されるようになりました。
(Schwab FJ, et al. Spine 2012より抜粋)
なお、この分類は, 評価者間でのばらつきが少なく,
(Schwab FJ, et al. Spine 2012)
手術治療を行うべきか保存療法を行うべきかの決定と相関することが示され,
(Terran J, et al. Neurosurgery 2013.)
そして、術後の成績 (患者立脚型) にも反映されることが示されています.
(Smith JS, et al. Spine 2013.)
次回に続きます。
マニアックな内容ですみません。
今回は、 いわゆる高齢者の「背骨の変形」、僕らの専門用語で言うところの
「成人脊柱変形」
について、(自分の知識の整理も兼ねて)まとめてみたいと思います。
成人脊柱変形は、脊椎外科領域では最近のトピックの1つになっています。
特にこの10数年で様々な事が明らかになり、特に
治療(手術)成績を上げるための工夫が進歩しています。
歴史的には、成人脊柱変形 (Adult spinal deformity: ASD) の診断とフォローについては
冠状断、つまり正面から見た時の変形の評価が重要視されていました。
いわゆる「側弯症」というものです。
しかし、近年では矢状断、つまり横から見た時の変形の評価が非常に重要になっています。
(Schwab FJ, et al. Spine 2013, Glassman SD, et al. Spine 2005.)
おそらく最初の報告は、2005年にGlassmanらがSpineに報告した論文で、
そこで全体の矢状断アライメント (Global sagittal alignment; GSA) の
重要性が初めて提唱され、 以降、特に骨盤パラメータがその評価に重要である
ということが分かってきました。
(Schwab FJ, et al. Spine 2013, Smith JS, et al. Spine 2012, Lafage V, et al. Spine 2009)
その中でも、鍵となるパラメータは、
1. Pelvic Incidence (PI)
骨盤形態の測定値で、その個人でほぼ同一の値を取る
個人の理想的な腰椎前弯 (LL)は、この値をもとに決定される
大腿骨頭と仙骨上縁の中点を結んだ線 (線分oa)と、
仙骨上縁の中点から引いた、仙骨上縁のラインに対する垂線
(線a)とのなす角を指します。
2. Pelvic Tilt (PT)
代償性の骨盤の後弯を反映する値
大腿骨頭から引いた、地面に対する垂線(VRL)と、
線分oaとのなす角を指します。
となります (次の図参照)。
(Spinal deformity study group; Radiographic measurement manualより抜粋)
安定した立位を保持するためには、腰椎前弯が保たれていることが大事
ですが、腰椎前弯が消失した場合、全体に体が前方に倒れてしまうため、
その姿勢を代償するために、骨盤が後傾することで保とうとします。
その代償の程度を探る指標として、これらのパラメータが注目された
ということです。
Schwabらは、492人のASD患者を対象に、
健康関連QOL (ODI) と、脊椎骨盤パラメータとの相関を調査し、
以下の3つのパラメータと相関があることを報告し、それらを基に
SRS-Schwab分類を提唱します。
(Schwab FJ, et al. Spine 2012)
それが、
1. PT
2. SVA (sagittal vertical axis)
3. PI-LL mismatch
です。
なお、SVAは、下図のXの値となります。
(Spinal deformity study group; Radiographic measurement manualより抜粋)
そして、LLは、Lumbar lordosis (腰椎前弯) の略語で、
パラメータで書くと、
第1腰椎の上縁のラインと、第1仙椎の上縁のラインとのなす角
を指すことになります。
そして、上述した PI と, LL との関係性として,
無症状の成人においては、
PI - LL ≦ -9°
という式がほぼ成立することを示しており,
(Schwab FJ, et al. Spine 2012)
ASD患者ではこのミスマッチが起こり、
それが健康関連QOLとの相関がある、ということです。
この論文での報告では、
ODI (0-100点満点で、点数が上がるほど状態が悪い) が 40点以上 (severe disability)
となるパラメータの閾値は、それぞれ
PT ≧ 22°, SVA ≧ 4.7 cm, PI - LL ≧ 11°
となります。これらを基にして、SchwabらはSRS-Schwab分類を作成し、
広く利用されるようになりました。
(Schwab FJ, et al. Spine 2012より抜粋)
なお、この分類は, 評価者間でのばらつきが少なく,
(Schwab FJ, et al. Spine 2012)
手術治療を行うべきか保存療法を行うべきかの決定と相関することが示され,
(Terran J, et al. Neurosurgery 2013.)
そして、術後の成績 (患者立脚型) にも反映されることが示されています.
(Smith JS, et al. Spine 2013.)
次回に続きます。
マニアックな内容ですみません。